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November 19, 2019

青い柿

青い柿が食べたかった。正午の空と同化してしまうような色をした柿が。
 アスファルトで舗装された道には両側に電信柱がどこまでも並んでいる。両側の民家はそれぞれ思い思いのデザインで凡庸な個性を主張し合っている。そんな民家の1つ、それも全然大したことのない民家に1本だけ、柿の木が生えている。木は生垣からはみ出し、青い柿が道の上空に静止している。やじろべえのような奇妙な安定が続く。朝も昼も夕方も夜も、それに早朝も、そんな情景をずっと思い描いていた。
 そして烏がやってきて柿をつつく、道には食べられた柿のへたと外側と外側の内側が残される。そこに5種類くらいの大きな虫と無数の生き物が集まるのだ。
10年前の科学の力では、いくら上手くいっても、青い柿を作ることはできなかった。でもこうしてたった一本だけだが青い柿の木が生えている。この木がしっかりと育てば青い柿がなるだろう。そして誰かが空のような柿を食べるのだろう。しかし私は深い海の底に沈んでしまった。どうしたものか。

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