#24-21 トランポリン
ことあるたびに、高く高く跳ねる妄想をしてしまう。重力に反して、ぎゅわっと体が上がっていく感覚。競技用トランポリンを体験して以来、不意に思い出される感覚である。世界的なトランポリン選手は8mの高さまで跳ぶらしい。まず地面を見て、8mってどれくらいだろうかとだんだんに視線をあげていく。人間5人分であることを考えて視線をあげていくとかなり高い。恐ろしいほどに高い。でも私は、実際には自分がたった数メートルしか跳ぶことができない、なんて想像ができない。頭の中で、競技用トランポリンに思いっきり飛び乗ってみる。体育館の屋根を突き破って、大気圏ギリギリくらいで、溺れる直前の平泳ぎみたいに、必死に手足で空気分子をかき集め、地上のトランポリンに戻っていく。実際3mくらいしか跳べたことはないのに、高さ3mくらいで鉛直方向の速度成分が0になる姿を想像しようとしても違和感を覚えてしまう。重力おかしいんじゃないか、と。宇宙の全てを説明する数式の存在に魅了されて物理学科に行こうとしていた時期がありました、なんて口に出せない程の馬鹿な妄想である。
私がこんな空想をしてしまうのは、トランポリンだけでない。先日車の窓からぼけっと建物を眺めていた。タイヤを売っているお店があった。タイヤを転がらないようにそっと立てて置いて、助走をつけて踏み切って、タイヤに跳び乗ってみる。やっぱり10階建てのマンションくらい余裕で追い越して、町全体を見渡せるようになって、雲を通り越して、それでようやくタイヤの方に進路を戻していく。そんな重力の小さい世界で空まで跳ぶ自分の姿を想像してにやけてしまう。
重力の小さい私の妄想の中に迷い込みたい。
マテーマタ
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