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アジサイ

部員日誌

#25-65 昨日の夢

ここはオリンピック、運動選手であれば誰もが夢にする場所。


500メートルの決勝。俺の隣にはウィリアムダンジヌ、ヴィクトルアン、ファンデホンなど世界的な選手が並んでいる。 全国民が見てる競技、ミスなんて許される訳がない。


スターターが腕を挙げ、会場が一瞬で静まり返る。


「Go to the start」


...


「Ready」


...


「GO」


スタート音と同時に全員が氷を蹴った。


ダンジヌが一歩目から強烈な加速で飛び出し、ヴィクトルアンは独特の低い姿勢で外側からスピードに乗ってくる。ファンデホンは余裕のあるライン取りで、まるで最初から勝つ順番を知っているかのように滑らかだ。 その中で俺は、スタートの感触が完璧だったことを確信していた。


一周目。ダンジヌ、ファンデホン、俺、ヴィクトルアンの順で滑っていた。イン側へ入ろうとするヴィクトルアンと肩が触れ合う。 世界王者とぶつかる恐怖より、前へ出たい欲の方が強かった。


残り3周。


ダンジヌがわずかにペースを上げ、隊列が縦に伸びる。俺はその動きを読んで、外からスパッと一歩強く踏み込んだ。 世界の頂点を争う4人が、同じコーナーに飛び込む。


最後の一周の鐘が鳴る。


前ではダンジヌがリードを保ち、すぐ後ろをファンデホンが張り付いている。ヴィクトルアンは膨らみながら、最後のコーナーで一気に仕掛けるタイミングを探っていた。


ダンジヌがわずかにスピードを落としてコースを守り、ファンデホンがそこをアウトで追い越そうとしてる。その一瞬、インに細かい隙間ができた。


ここしかない。


視界が細くなるほどの加速。傾いた体は氷に吸い付き、ブレードがきしむ音と共に、そのわずかな隙間を切り裂いた。


俺が前に出た。


残るは最後のストレート。ダンジヌが外から伸びてくる気配が、背中に迫る寒気のように重い。腕を振り、氷を蹴り、前だけを見た。


最後の一周の鐘がもう一度鳴る。500メートルの競技で鐘が二回鳴るなんてありえない。しかもその音は、ものすごく聞き慣れた別の音だった。


気づけば俺は、薄暗い部屋の中で布団に埋もれていた。スマホのアラームが震えていた。全部、ただの幻想だった。


あまりにも現実的じゃないことに虚無感を感じた。


スマホは9時30分を示している。深夜の1時から寝始めた俺はぐっすり8時間以上の睡眠をとったはず。が、もう一度瞼を閉じる。週末だから。そのまま二度寝に入る。


将来有望な大学生

 
 
 

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