風を継ぐ者
僕の地元は海の見える街だ。海岸沿いに並ぶベンチには、たいていオンボロ自転車傍ら何をするでもなく黄昏ているおやじたちがぽつぽつといる。彼らは夕陽の中ではしゃぐカップルや子供たちを眺めながら、人生の残された時間を持て余しているのだ。少なくともいつもウォッチ片手に走り過ぎる僕の目にはそう映っていた。
街と海との間には防波堤があり、その上からは浜辺が一望できる。その日はなぜだか走る気が起こらず防波堤の上に腰をかけ風に当たっていると、ふとベンチのおやじが目に入った。そこから見る背中は妙にいつもと違い親近感が湧いた。もしかすると彼らにとっては、何をするよりもこの時間が大切なのかもしれない。水面に反射し照りつける夕陽が、煮詰まった心を癒してくれる。「来たか坊主。何がそんなにつまらない。まだまだ若いな。」そんな声が風に乗って聞こえた気がした。
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