#25-09 信号機
- Kyoto University Speed Skating Team
- 4月30日
- 読了時間: 4分
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がっこうおわり。
となりのせきのあゆむ君とおうちにかえる。
今日はすいようびだから、ひるやすみのまえに下校の時間だ。
ランドセルをせおって、きゅうしょくぶくろをにぎりしめてがっこうをでた。
いつもこうもんを出ると、めのまえにどうろがある。
あゆむ君とぼくはきいろのブロックの前で赤しんごうをまつ。すでにきょうしつから走ってきたから、ぼくもあゆむ君もぜえぜえ言っている。
でも、いつもこのしんごうできょうそうしているから今日もまけられない。
青になったしゅんかん、はしりだす。
かった!
今日は先にぼくがはんたいの歩道についた!
「じゃあ罰ゲーム、ランドセル背負ってな!」
「そんな約束してないし」
今日もけたけた笑えてたのしい日になった。
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私は今、信号待ちをしていた。
片道一車線ずつの小さな横断歩道。待ち時間が長く感じられ、私の目の前を通る車道の往来の方が優先されているような気がして「早く信号変わらないかな」なんて思っていた。
ちょうど昼の12時をすぎた頃、私は後ろにある大きな学校の校舎に見下ろされていた。
最近はもう、日向が暑い。
日陰に入れば良いのだけれど、私は漠然と急いでいた。
少し後ろに下がれば校門の横に整列した木々が並んでいて、申し訳程度の日陰があった。
学校帰りのちびっこたちが日陰に入って、信号を待っている。
みんな賢い、と思った。
本能か、親の言いつけか、はたまた「ゆとり」なのか、10歳にも満たないだろう小学生たちが列をなして信号を守り、校門からの日陰に沿って並んでいた。2人を除いて。
2人の男の子。
自転車にまたがって、片足を地面につけた私の隣で息を荒くしている2人の男の子。
右の子は赤色のぼうしを被っていて、黒のランドセル。左の子は白ぼうしで、これまた黒のランドセル。信号機をじっくり見つめて、今にも飛び出しそうな姿勢で構えていた。
信号機の中の赤染めの人間がフッと消えた。
すぐ下から緑の人間が現れ、歩きだした。
隣のちびっこたちにつられるように、でもいつも通りに信号機をじっくり見つめていた。
でも今日はいつもと違う。
信号機が見せる色が変わった瞬間、私は足をペダルに乗せようと神経が走るよりも先に、ブレーキを握りしめた。
ふっと力を抜いて、視線を走り出した2人の男の子に向けた。
かけっこは赤ぼうしの小学生が勝ったようだ。体感5秒くらいだっただろうか。
小学生にとってこの大地は広い。
まだまだ帰路は長いはずだが、後先考えず、全力を尽くして勝ちにこだわる。
「せっかち」という言葉があてはまるだろう私の特性はこういう小さな積み重ねからきたのだろうか?
もし、そうならいくらか自分を肯定できたに違いない。
小学生時代の無邪気に勝ちにこだわる姿勢。
中高生時代の若さに任せた無謀な計画の数々。
大学に入ったばかり、いろんな新歓イベントにいき、いろんなサークルに入って、いろんな人と交流して…。
新しい環境に好奇心をこぼしながら、いつも前を見ていたと思う。
でも、いつからだろうか。
私は「効率」という言葉を習得してしまった。
小さな交差点なんて走らなくて良い。そんな小さな勝負なんて勝っても何も得られない。
でも、自転車に乗って、信号が変わった瞬間に飛び出す心持ちだけは砥ぎ続けてきた。
そんなに急いでも何かあるわけじゃない。でも早く家に帰りたい気持ちがいつも先走っていた。
家に急いで帰って、果たして私は時間を有効に使えるのだろうか?
車道の向こう側で笑いあいながらはしゃぐ2人を眺めながら、なんとなくこの信号を渡る気になれなかった。
ぞろぞろと信号を渡っていく小学生たちを横目に見ながら、結局信号を一本見送った。
そして、そのまま信号を渡らず、突き当りまで車道に沿って自転車を走らせようと決めた。
遠回りになるけれど、もうちょっと風を浴びながらぼんやりしたかった。
深場東風
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