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ノートブック上の2本のペン

部員日誌

#24-25 笑顔

 私は大学に入ってからとても重要なものを一つ失った。バイタリティというのか、気力というのか、目に見える成分に例えるなら笑顔だろう。高校まで何も意識していなかったのが、大学に入って、徐々に効率化を図るようになったらしい。そして気づくのだ、笑顔を作ることに多くのエネルギーが割かれることを。


 時同じくして大学に入ってから怖いと言われるようになった。この部活以外で言われたことはないので、比較的素の自分に近いものが出ているのかもしれない。しかし、幼稚園以前を除けば、私は異常に人懐っこい人間であった。だから怖いと言われる要素はどこにもないのだ。人懐っこいというのは小学校の頃に形成された私の形質の一つであり、主に年上の人に発動する。だから先輩にあたる立場の人とは仲良くなりやすかった。(が、最近はそうして仲良くしてくれる方々の優しさに依存しているような気がしてならない。)


 逆に後輩と接することは非常に苦手である。小学校以来の処世術として年上(要は先生か親)の人間と親しくなることが必要であると考えていたようだし、図らずもそうなっていった。一方で、年下の人間と触れ合う機会が無く、この機会損失が非常に現在に影響を与えている。話を戻せば、怖いというイメージが定着すると後輩相手とのコミュニケーションは取り返しがつかないことになりかねない。相手から怖がられている前提で、しかも難易度の高い後輩とのコミュニケーションを取る…。なんて無理難題だ。


(ちなみにここでの後輩というのは幣部の後輩に特化している訳ではなく、様々なコミュニティでの年齢関係全般について) ちなみに幣部での人間関係に特化すれば、私は後輩から変な人と思われていないらしく、その点については非常に嬉しく思う。怖くて、変な人だったらたまったもんじゃない。でも、どうかもう少し優しい人間に見えたら良いのに、とぼんやり考えた夏の夜だった。


 その夜は普段の夜とは異なるものだった。東京での2daysインターンの初日の夜のこと。一日頭を使って、ビジネスホテルで一人晩酌をしていた頃だった。


 ホテルにて日常に無いテレビを鑑賞していたところ、ふと画面に映るタレントの顔から、その日の朝に自己紹介で少しばかり会話を交わした女性の笑顔を思い出した。


 誰に対しても屈託の無い笑顔を浮かべ、常に口角の上がった、学校のクラスに一人いるような女性。1分話したかどうかの間柄だったが、その日一日会った中で誰よりも強烈な残像を私の脳内に残した。それから翌日、その女性を見かける度に誰かと同じような笑顔で会話し、話を弾ませていたのだった。考えてみれば、目が死んで、真顔でいる人間よりも笑顔でいる人間の方が幾分か話しかけやすいはずだと思うし、逆にこちらから声をかけるシーンでも相手の受け取り方が異なってくるはずだ。


 そのインターンで学んだのは会社の雰囲気でも、ビジネス的な何かでもなく、人としてのあるべき姿そのものだったのかもしれない。就活の時期にもなって私はまだ、人生の教科書の序章を過ごしていた。


深場 東風

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