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ノートブック上の2本のペン

部員日誌

#25-11 世界一のシェフ

下宿してほぼ一年になる時期に、初めて料理をした。その料理も卵かけご飯。


まず、これまで自分の「自炊生活」について、すこしだけ説明させてほしい。一人暮らしを始めてから一年近く。驚くことに、つい先週まで、フライパンすら持っていなかった。「きっと、そのうちは」とは思っていた。でも、料理が得意なわけても、好きなわけでもない自分にとって、フライパンは「なくても良いもの」判定だった。生協とコンビニ。冷凍食品とカップラーメン。この4点で今までなんとか生きてきた。決して誇れることではないかもしれないが、生きる最低限のラインは、ちゃんと満たしていたつもりだ。


そんなある日のこと。スーパーでいつもの冷凍食品の買い物をしていた時にあの子と出会った。たしか大阪のスーパーでも出会い、東京のスーパーにもすれ違った気がする、あの子。その子の名は「寺岡家のたまごにかけるお醤油」。


なんてことのない棚の端に、ぽつんと並んでいた。が、その小さな瓶に貼られていたラベルには、不思議な存在感があった。「たまごにかけるお醤油」。まるで自分のために生まれてきたのような名前じゃないか。手に取って、裏の成分表をぼんやり眺めていたら、気づけばカゴに入っていた。


帰ってすぐに炊飯器のスイッチを入れた。ご飯が炊きあがるまでの時間が、こんなに待ち遠しいと思ったのは初めてだったかもしれない。そろそろ時間になりそうなときに、フライパンに油をひき、中火で温め、そーっと卵を割った。白身が透明から白に変わり、端からじわじわと火が通っていく。「ぅぉ……」と思わず心の声が出る。まるで初めて手にした魔法の道具で、奇跡を起こしているような気分だった。


やがて炊飯器が「ピッ」と鳴って、ご飯が炊きあがった。その上に、フライパンからそっとすくった目玉焼きを乗せる。最後に、あの子。「寺岡家のたまごにかけるお醤油」をひとたらし。


それはもはや、ただの卵かけご飯ではなかった。目玉焼きと白米とお醤油が、見事に三重奏を奏でている。箸で軽くかき混ぜて、ひと口。


……うまい。


今まで食べてきた料理のなかで一番美味しかった。もはや、この世にはミシュランガイドなんて必要ないんじゃないかと思えるほど。今の自分なら、フランスの星付きシェフとも、銀座の名店の板前とも戦える。いや、勝てる気すらする。


目玉焼き、ご飯、そしてあの「寺岡家のたまごにかけるお醤油」。この材料で、フライパンすら持っていなかった自分が自炊への第一歩を踏んだ。たったそれだけで、世界一のシェフになれた気がした。


将来有望な大学生

 
 
 

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